カルテ6ー2

5/36
前へ
/36ページ
次へ
綺麗になった部屋。 「じゃ、帰ります」 「え」 眼鏡の奥の瞳は真面目過ぎるほど凛、としていて ビックリしてそこを見つめて恥ずかしくなる。 なに、"え"って。 口をついて出た疑問系にさらに恥ずかしくなった。 「あんた、なにしに来たの」 「なにしに来た? 分からないんですか?綺麗になったでしょ」 「は?」 「掃除しに来たんですよ」 あー、掃除、…… クルリと部屋を見渡して 確かに片付いた部屋に相槌を打つ。 「それとも」 「ひゃ」 瞬間、腰を寄せられてピタリと合わさる身体。 「また、シたかったですか?」 な 「有馬さん」 な、なにを。 低い音が 側頭葉付近に寄せられた唇から骨を伝って響くような感覚に パブロフの反射が目覚めそうになる。 「ほっそい腰」 陣内の腕がギュウと そこを締め付ける。 「ちょっと乱暴にしたら、折れそうですね」 乱暴とか折れそうとか こんなワードはけっこう私の中でスイッチにあたるような不思議な感じで 「……また、それは今度試しましょう」 そう言って離れた陣内は、魔的な微笑いを残して玄関へ向かう。 なんだほんとに掃除に来たんだ、と ガッカリする自分がめちゃめちゃダサかった。 陣内に 陣内に 期待するなんて。 ピカリと灯ったライトの下で、靴を履いた陣内を見上げた。 独りは物足りない、と言えば この男は一緒にいてくれるんだろうか。 「じゃあ、有馬さん、また明日」 気づいたら頬に伸ばした掌。 陣内がとても驚いた顔をした瞬間、ライトがフッと消える。 いつもの事だ。 こないだ、オートライトの確認したらメモリが25sになっていた。 だいたい25秒間の点灯ということだ。 その掌を握られてドキン、と心臓が喜んだ時、またライトが点いた。 「有馬さん、嘘です」 「へ?」 「掃除にきた、なんて嘘です」 「え?」 陣内の眼鏡の奥の黒が、濃く放ったのは 私を脅かす……これは、なんだ……?
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

897人が本棚に入れています
本棚に追加