カルテ6ー2

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ストレッチャーに馬乗りになった救急隊員は汗まみれ。 心マは物凄くパワーが必要だ。 しかも、緊迫した一刻を争う場面では尚更力が籠る。 「何分!」 「1分です!」 「1分23、24、25……!!」 患者の意識障害、多分、脳卒中だろう事は間違いない。 その原因はこうなってしまっては、今は、分からなくて、いい。 「圧迫変わります!」 「チャージして!」 「人工呼吸続けてっ!」 「輸液完了です」 「アドレナリン入れてー」 「チャージできました!」 「一発目、行くよ!よし、離れて!」 みんなが落ち着いて、戸惑う事なく自分のやるべき事ができるのは 私と、陣内が、全くいつもと様子が変わらないからだ。 「出ません!」 モニターに写る緑の波線はまた、直線に戻り ピー、という長いダラダラした音をそこから響かせる。 嫌な音だ。 畜生。 「何分?」 「3分です!3分3、4、」 「新生児科、いる?」 「います!!」 マスクのドクターが手を挙げる。 「陣内」 「了解」 ざざ、と動いた私たちの気配を察知した周りが 「無影灯大丈夫ですか」 「準備オッケーです!」 それぞれに立ち位置に付いて 開腹術に備える。 一次蘇生で立ち直ってもらえなかったのは 悔しい限りだ。 「おかあさん、頑張ってよ?」 BVM(人工呼吸器具)に覆われた顔を見ながら そう呟き 「赤ちゃん出すよー!!」 「はい」 「はい!!」 掌を差し出した。 そこに確かに感じたメスの重み。 「ごめんね、1分で出してあげたいから、縦に切るね」 「有馬先生……」 心停止の母体から5分以内の帝王切開では 子供が助かる場合が高い。 そして、後遺症の心配をしなくていい確率は70%超えるくらい。 腹膜の下の子宮を確認した。 ここからが勝負だ。
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