カルテ6ー3

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「ボスは何を相続したんですか」 「新宿醫院」 「ぶっ!!」 ウケる! 名の通ったホテル飯は立ち食いでも、マジ旨い。 ほら、色気もなんもあったもんじゃない。 「肉、旨い」 「お前なぁ」 ボスの親指が私の口の端を拭う。 こんなのは何時ものことだった。 「綺麗なカッコしてんだからもっと身の振る舞いに気を付けなさい」 「……だって、来たくて来た訳じゃないもん。 ボスは、醫院、引き取るんですか?」 チラリとこっちを見たボスは 私を見てまた呆れ顔と呆れ眼を向ける。 「望絵」 「なんれふか」 「お前はハムスターか」 呆れ顔が、ちょっとした笑いに変わった。 「ほっぺたに詰めこみ過ぎだろ、それ」 「……」 まぐまぐと口を動かし、咀嚼に励む私を笑い飛ばすのはいつもと変わらないボスだ。 「早く帰りたい」 何処に? 真っ先に浮かんだのは陣内だった。 なんだ。 結婚はしない、一緒に住まない、ナカでばら蒔くのも許さない、なのに陣内だなんて。 アイツのパブロフ計画はまさに大成功を収めたじゃないか。 「めんどくさい」 「望絵、飲むか」 シュワシュワと泡が上るグラスの中身は きっと私の好きなアルコール。 手を伸ばして受けとり、ハムスターを払拭すべくそれを流し込んだ。 「私は何を継がされそうになったんだろう……」 「聞いてないのか」 「……知ってるんですか?」 ボスは握っていたグラスの液体を胃の中に収めた。 「ま、どっちにしろ"放棄"するんだから、関係ないけど」 白石が何を考えていたかなんて知らないけど ほんと、最後の最後まではた迷惑なおっさんだ。
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