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ブレイドさんに促された席は勿論末席で
視線の集中砲火を浴びながらそこに落ち着いた時
「カガワタカフミさんとアリマモエさんです」
シルバーの眼鏡をかけた
ちょっといかにも仕事できます風な男が
ボスと私の名を呼んだ。
コッワイおっさんが"チッ"と舌打ちをする。
「先日、申し上げた通り、こちらのお二人にも
前白石社長の遺言書により相続の権利が確立されています」
なんだなんだ、いきなりそんな話なのか。
「香川貴文さんには新宿白石醫院
住所、東京都新宿区…………の土地と建物の全権利を、但しこちらは前社長が生前に……」
要は、ボスがそこを引き受けたという事だろう。
シルバー眼鏡の男が吐き出すセリフは抑揚がなく
それ自体が呪(マジナ)いのようだ。
しかもこの圧迫感。
なんか、気持ち悪くなりそう。
ハッキリと理解できないまま顔を上げると
つい、こないだ白石の本宅に行った時に会った綺麗なご婦人と目が合って、おまけにニッコリと微笑まれた。
誰だっけ……この人。
ラフなカッコとは違った。
立派な着物なんだろうけど、私にはその良さは分からない。
黒地に、真っ赤な花が描かれたそれは逆に趣味が悪いとさえ思ってしまう。
「……嫡出子甲(コウ)が放棄した場合、その権利の全てを有馬望絵に譲るものとする。
そうありますように、第一相続人の放棄により
有馬望絵さんに……」
…………その全て?
は?
何を、全て?
ザワザワとざわつくどころか。
バン、とか、ガン、とか、ガッシャン、とか
なかなかの大合唱で騒がしい事、騒がしいこと。
私だけがなんの事か分かっていない。
分かるわけないじゃない。
さっきのさっきまで知らない事だったんだから。
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