カルテ6ー3

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「また、法定相続人は甲以外におりませんので、遺留分分割は基本、ございません。 また、その他の遺贈については以前に申し上げた通りでございます」 いやいや、おかしい。 おかしいし。 「有馬望絵さん、前白石社長の遺言書に基づき 相続の権利が ございます」 "何も聞くなよ? とにかく、相続すると言え" さっき、クソ代表ザルが私に耳打ちした言葉だ。 何も聞くな? 相続する? バカバカしい。 そんなもん、相続するバカいるかよ! 難しい法律説法はさっぱり意味が分からない。 「望絵、どうするんだ」 また、ザワザワと部屋が揺れる。 「どこの誰かも分からない女に財産の3分の1も持ってかれるなんてどういう事だ!」 「そうよ!兄さんは何かんがえてんのよ!」 「なんでこっちには遺贈でそのアバズレが相続なんだ!」 「その女は新宿で使われてた医者だろう?!」 白石……マジ呪い殺してぇ…… いや、もう死んだんだけどさ? 地獄で針の山マラソンとか、蜘蛛の糸マリオネットとか、釜茹でアッツアツ我慢風呂大会とかやらせてやりたい。 閻魔様、頼むから今よりも酷業を! くそ。 くそぅ。 ファミリーの集合はそれはそれは暑苦しくて 欲にまみれたモノだった。 「皆様静粛に」 シルバー眼鏡のおっさんの声が響く。 隣のおっさんは多分、書記。 この、バカバカしい身内の争いを一字一句記録する為にカタカタとパソコンのキーを叩く。 同時通訳並のはやさだ。 「望絵、どうする?」 クソ代表ザルがニヤリと笑った。 早く、言え。 そう言わんばかりに。
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