カルテ6ー3

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「遅くなりました、陣内岳杜です」 さっきのおっさんがまた舌打ちをしたのが聞こえた。 ギロリとソコをピンポイントに刺して 「伯父さん、文句なら後程伺います」 陣内の地獄耳がほんの小さな音さえも聴き逃さない。 しかも、なに?オジサン、とか言っちゃった? やっぱり他人の空似でもソックリさんでもなく 陣内本人だ。 だって、今自己紹介とかしちゃったじゃーん。 「ボス、ヤツがなんでここにいるんですか」 ボスは何も言わない。 なんで何も言わないんだ、つかえねぇ。 「先の件ですが……故 白石杜夫(モリオ)の遺言通り、第一相続人の私が遺言書に基づいて相続します。 また、詳細は非嫡出子乙(オツ)である白石グループ現代表の渡辺智也(ワタナベトモヤ)との話し合いにて順次決定させていただきます。 異議のある方はいらっしゃいますか」 そう言った陣内が隣のシルバー眼鏡に何かを告げて そして、私の方に向いた。 誰も、何も言わない。 なぜ、みんな陣内の話なら聞くの? 胸の奥と鼻の奥で大きくナニかが膨らんで目の奥を引っ張る。 「有馬望絵さん、大変お手数をお掛けしました。 お帰りいただいて結構です。 せっかくですから、会場で寛いでいってください。 本日は有り難うございました」 陣内が一礼を交えながら言ったすぐ後 向こう側に視線を飛ばして頷く。 「有馬先生……」 そして、直ぐにブレイドさんが私の席を引いた。 出て行けってことだよね。 ああ、行くさ、出て行くさ。
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