973人が本棚に入れています
本棚に追加
「遅くなりました、陣内岳杜です」
さっきのおっさんがまた舌打ちをしたのが聞こえた。
ギロリとソコをピンポイントに刺して
「伯父さん、文句なら後程伺います」
陣内の地獄耳がほんの小さな音さえも聴き逃さない。
しかも、なに?オジサン、とか言っちゃった?
やっぱり他人の空似でもソックリさんでもなく
陣内本人だ。
だって、今自己紹介とかしちゃったじゃーん。
「ボス、ヤツがなんでここにいるんですか」
ボスは何も言わない。
なんで何も言わないんだ、つかえねぇ。
「先の件ですが……故 白石杜夫(モリオ)の遺言通り、第一相続人の私が遺言書に基づいて相続します。
また、詳細は非嫡出子乙(オツ)である白石グループ現代表の渡辺智也(ワタナベトモヤ)との話し合いにて順次決定させていただきます。
異議のある方はいらっしゃいますか」
そう言った陣内が隣のシルバー眼鏡に何かを告げて
そして、私の方に向いた。
誰も、何も言わない。
なぜ、みんな陣内の話なら聞くの?
胸の奥と鼻の奥で大きくナニかが膨らんで目の奥を引っ張る。
「有馬望絵さん、大変お手数をお掛けしました。
お帰りいただいて結構です。
せっかくですから、会場で寛いでいってください。
本日は有り難うございました」
陣内が一礼を交えながら言ったすぐ後
向こう側に視線を飛ばして頷く。
「有馬先生……」
そして、直ぐにブレイドさんが私の席を引いた。
出て行けってことだよね。
ああ、行くさ、出て行くさ。
最初のコメントを投稿しよう!