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「ブレイドさん、その話は結構です」
今はいいや。
もう、お腹いっぱいでこれ以上聞きたくない。
「あ、スマホ……」
「こちらに」
運転をしながら助手席に手を伸ばしたブレイドさんがホテルのロゴ入り紙袋を私に渡してくれる。
その中に詰め込まれた服と荷物。
いつもの私のスタイルだ。
今の私は、作り物だ。
「有馬先生」
「なんですか」
「陣内先生をあまり責めないでください」
ブレイドさんはなんで陣内を"先生"で呼ぶんだろうか。
「陣内先生は、……ずっと有馬先生を慕われていました。
小さい頃から、ずっと」
「そんな事は知らない。
陣内は、……陣内と初めて会ったのは去年の10月だもん。
ボスが連れてきて……」
ボスは……なんで陣内を連れてきたんだ……。
「覚えていらっしゃいませんか?」
「何を」
「有馬先生、まだ白石にいらっしゃって半年くらいの頃に、木から落ちた子供の傷を」
「うそっ!!」
「……あの子が岳杜さんです」
は?
は?
うそ!
「うそでしょ!あんなチビガキ?
いやいやいや、ないないない!
だって、私と……6才違いでしょ?
あの子は、……小学生かと思ってた、だからクソザルだと」
「いいえ、岳杜さんです。
岳杜さんの身体が著しく伸びはじめたのは、高校へ進学されてからです」
う、うそ……
いくら思い出してみても、あの小さくて、細っこい僕ちゃんが、ちゅ、中学生?だとは思えない。
「じゃ、じゃあ、クソザルは?
クソザルの姿なんて見たことなかったし!」
「代表は、白石邸にはお住まいになれませんでした。
社長の、……前社長のご子息は岳杜さんだけでしたから」
「は?……意味、分かんないし」
いや、もういい。
だから何だって言うんだ。
だから、なんなんだ。
「ブレイドさん、駅前のスーパーで下ろして
ソコまででいい」
頭、痛くなってきた。
考えたら脳ミソミックスジュースになるわ。
それに今朝買ったアルコールは全部陣内の家に置いてきたし。
早く帰りたい。
家に帰りたい。
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