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「ブレイドさん、有り難う。
もう、会わないことを願います」
「有馬先生……」
今朝と同じ所で下ろしてもらって
深々と頭を下げる。
「感謝するところはたくさんあるし
辛いことばっかりじゃなかったし
いつも、気を遣ってくれて有り難うございました」
「有馬先生……、顔を上げてください。
私の事は構いませんが陣内先生の事は」
「それは、今はいい」
ブレイドさんの陣内攻撃をさっきから遮ってばかりいる。
だけど、考えられないんだ。
「ブレイドさ」
え。
顔を上げた目の前で、いつも温厚で柔和なブレイドさんの顔色が豹変する様子がスローのように見えた。
私の後ろを見上げていたそれは
目つきも
眉間も
こんなに険しくなったところをこの20年弱の間で
初めて見せたモノだ。
ドン、と息が詰まるくらい抱き締められた身体は、本当に骨が軋むくらいの強さで、突然のことで驚いた瞬間。
身体を通した向こうで"パス、パスっ"と小さく何かが弾けた音がした。
「あ!!」
何があったのか分かった時には
もう事が起こってしまった後で
慌てて後ろを振り向いて確認したのはスーパーのガラスに写る真向いのビル。
正面に向き直りそこを見上げた時にはもう誰もいなかった。
「ブレイドさん!車に乗って!!乗れる??」
「……有馬先生、大丈夫ですか……」
大きな身体を引き摺りながら、それを抱えながら車までの数歩を移動する。
手を添えたブレイドさんの背中には二つの焦げ跡。
もう何度も見た事があった。
間違いない。
助手席に乗せたブレイドさんにシートベルトを締めて自分が運転席に乗り込んで
スマホで救命センターに電話をしながら車をスタートさせた。
「もしもし、有馬です!!
今から急患、運びます!
え?私が診るから、ってか、すぐオペ!
いい?!よく聞いてよ!!」
ブレイドさんは、背部から狙撃されたんだ。
違う。正確には、狙撃された私を庇って、撃たれたんだ。
ねぇ、どういう事?
どういう事よ、陣内。
白石……やっぱり地獄なんかじゃ足りないわ。
あんたのしでかした事も全部
死んでからの事も全部
地獄のちっぽけな苦行じゃ足りないから。
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