カルテ6ー3

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左肩から入った銃弾は腹腔内で留まり左腎下部周辺と大腸の一部を破壊していた。 右背部からのモノはギリギリ右肺を掠めていて、大きな血管を避けるように鉛が捩じ込まれている、という正に奇跡。 射創管から考えて……一発目は左、二発目が右だ。 「運がいいって言うか、なんて言うか……ブレイドさん」 「すごい身体ですね……」 「うん、後ね、やっぱハンディガンだったから良かったんだ」 「肺、無事で良かったね有馬先生」 「望絵先生、血圧安定してきたよ」 「でも、誰なんですか……えっとブレイドさん? どこの人?」 「……さぁ」 「しかも有馬先生、その姿……」 深刻なオペ中にもかかわらず、みんなの話題がブレイドさんよりも私のこの今までにないチャラチャラした姿に注がれる。 それはあまりのブレイド人気に私が落ち込んでるとでも思ってるからか? だったら、いらん気遣いだ。 「ね、しかも有馬先生、酒く」 「言うな髭男っ!」 主任がタブーを口にしそうになったから 黙らせてやる。 「きぃ!」 「ほら、主任、タマ!」 摂子の先の変形した銃弾を膿盆(ノウボン)の上に落とす。 カランと軽い音を立てるこんなちっぽけなモノが 火薬で飛ばされるとドエライ武器に変わる。 なんて恐ろしいんだ。 新宿醫院にいた頃、所謂、拳銃(ハンディガン)の射創なら幾度も扱った事があった。 これがもっと破壊力のあるライフルだったら 今頃私の身体にも風穴二つ。 しかも、ブレイドさんの右を突き抜けたら 私の心臓は木端微塵だったと思う。 腎臓を修復する手元が一瞬、ブルリと震えた。
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