カルテ6ー3

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『有馬さん、なんで電話に出』 「病院にいる。 なんで? なんで、とか笑うんですけど。 こんな事に巻き込んどいて、笑うわ。 ま、いいや、車、引き取りに来て。 それと、ブレイドさん、重症だから」 私は間違っているだろうか。 陣内の話も聞かずに通話を切って また、パタンと二つのドアを閉めてスマホを袋の中へと戻した。 頭が痛い。 おまけに、胸の奥だってなんでか痛い。 しかも なんで? なんで私が泣かなきゃいけないんだ。 何か悲しい事があるのか。 違う、悔しいんだ。 唇を噛み切るなんて、自分じゃなかなかできない。 普通は自己防衛機能がちゃんと働くからだ。 私にはそれが ない。 いつもそうだった。 先生もボスもそんな事をするんじゃない、とそう言った。 だけどそうしないと…… 「っ、ぅ、……ぅぅ」 堪えられない。 溢れてくるものは、無駄なものばかりかもしれない。 なんで、こんな事に。 なんで、私だけ。 なんで、うまくいかない。 違う。 なんで、陣内なの…… なんで、ブレイドさんが…… 血の味が、口の中に拡がる。 罪深い私にはピッタリの味だった。
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