カルテ6ー3

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主任が、私にだけ聞こえるような小さな声で呟いたのは心臓にザックリと突き刺さった。 「有馬先生の手は人を助ける為にある」 さらに、ギュウと握られた。 次いでチョビチョビと伸びた髭の辺りがすぅ、っと緩んでいく。 当たり前の事を言われただけなのに 物凄くショッキングで バタバタと溢れて膨らむ目ん玉の奥。 あまりの急激なそれに押し出されそうな感覚に陥った。 「有馬」 「香川先生ご無沙汰」 主任が……あのオカマチックな主任がなんか頼もしいオヤヂに見えたのは私を背中に隠したから。 一応、私よりは大きな主任が私をかくまったんだ。 そんな事すんなよ、オカマの癖に……。 ますます押し出されそうになる目ん玉を押さえるもやっぱりバサバサの睫毛が激しく邪魔。 「有馬先生、ちょっと疲れてるみたいだから 香川先生、お家まで送って貰えますか? あの患者さん、お友だちなんでしょ? 有馬先生の」 なんだよ、なんだよ、めちゃめちゃ気の利くオカマだったんだな、主任ンンン。 近付いてくるボスに身ぶり手振りを交えて話してくれてる。 師長もここはすぐ様賛同して 「香川先生、私からも宜しくお願いします」 ボスに頭を下げた。 「いつもご迷惑をおかけしてすみません」 「ぜーんぜん!有馬先生がいるおかげで活気はアフレテばっかだし、勉強になるし、一石二鳥、いや三鳥も四鳥もよ」 私はここで初めて主任を崇め奉ろうと思ったよ。 ……初めてかよ。 「有馬、帰るぞ」 ボスが私の手を引いた。 「有馬先生、ゆっくり休んで、また明日の朝からお願いよ」 「お疲れ様、ブレイドさんの事は心配しないで」 主任と師長が声で送ってくれる。 俯いたままの私には姿が見えなかった。
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