カルテ6ー3

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車は静かに動き出した。 ハイブリッド車の滑り出しの滑らかなこと。 エンジンが震えても静かだし ほとんど気にならない。 ボスは大抵のことは何でもズケズケという方だ。 私の悪口なんかはとくに好んで口にする。 今だって"普通の女みたい"とか。 なんだそれ、じゃあ普段は私はどんな女なんだっつー話だ。 なのに、陣内のことになると、貝だ、貝。 「……まぁ、いいや」 ほんとは何も良くなんてない。 ブレイドさんは私を庇ってくれたんだ。 ブレイドさんがいなかったら私はここにいるか、分からない。 ……たぶん居ないだろうよ。 唇がジンジンする。 そういえば、うちにクレンジングの類いがないことを思い出した。 「ボス、どっか近くのコンビニで下ろしてください」 だから化粧なんてめんどくさいんだ。 初体験が人生38年目にして目白押しじゃん。 ファストセックス 化粧 狙撃 陣内。 やっぱり目ん玉の奥が熱くて膨らんでくる。 車がコンビニの駐車場に停車する。 扉を開けようとした私に 「望絵、開けるな」 ボスが"待て"を命じた。 助手席まで回ったボスがワザワザ扉を開ける。 ああ、そうなんだ。 「ボス、そんな事しなくていいですよ ボスまで危ない」 笑う、マジで。 私はいったい何様なんだ。 コンビニに行くにも障害があるわけ? なに、それ。 出歩くのにも制限かかっちゃう? マジで勘弁。 「アハハハハハハハ」 突然笑い出した私に通勤途中買い物に来たらしいサラリーマンがぎょっとした視線を投げた。 そりゃそうだ、笑うしかない。 それでもボスは何にも言わなかった。
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