カルテ6ー3

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「ボス」 「なんだ」 「何から何まですみません」 私を一瞥して 「なんだ今さら」 「いえ、私、大丈夫ですから」 今度は二瞥目をくれて 「……そうか」 と、呟いた。 「望絵」 「はい」 「もう傷は作るな」 ジリジリとする場所を無意識に指で隠す。 「悪い癖だ」 「……はい」 「泣くのも我慢するな。 それも、悪い癖だ」 「……はい」 「それから ……陣内のことは、アイツ自身に聞け」 ボスが私の頭を撫でる。 途端にポロポロと溢れ出した涙の意味は多種多様。 「痛いか……」 「……ぃ」 「舐めとけば治る」 ボスに寄り掛かるのは楽チンだ。 妻子持ちだから深く入り込まなくていいし 勿論ボスも私に本気になることはない。 「なぁ、望絵」 「……なん、ですか」 ボスの手が頭を滑り下りて頬に添えられる。 「舐めてやろうか」 ああ、ボスも狡い男だった。 自分からは言わない。 私に言わせるのが常套だ。 「……ボスはどうして、 どうして、私に構うんですか……」 「どうして? どうしてお前に構うのか?」 「面倒な事まで背負いこんで、バカみたい」 もう何度も聞いたことがあった、それ。 私だって狡い。 それを聞いて、害がないかを確かめるんだから。 「お前に構う理由は……ふたつ。 ひとつは、腕がいいから」 ふたつ? 初めての展開。 ふたつだなんて、聞いたことが…… 「ふたつめは お前の事が気になって気になって、仕方ない。 だから、どうしても欲しくなった」 知らないうちに、チュニックを握り締めていた。 「舐めさせて……望絵」 心臓がフル稼働して、限界を振り切るくらい速くバクバクと動き出す。 近付いてくるボスの顔をただじっと、見つめていた。
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