カルテ6ー3

9/34
前へ
/34ページ
次へ
総会とやらが終わってすでにレセプションとやらが始まっているらしい、と聞いたのは それが開かれているホテルでの事。 昔見た映画"プリティーウーマン"を思い出していた。 「支度をお手伝いさせていただきます」 と言った若い二人の女子。 文言に違わず、お手伝いしてもらった結果。 「お綺麗です、有馬先生……見違えました」 「……うるさいし」 確かに着飾った事は今までに一度たりともなかった。 さらに、化粧とやらもした事がなかった私には これは初体験だ。 「誰、これ」 ただの散切りだった髪は緩やかに巻かれていて うまい具合にチラリホラリと散らばる。 フェイスラインを隠して小顔効果バッチリだ。 耳に光るのは目映いばかりのイヤリング。 ま、まぶいし、マジで。 睫毛はバッサバッサと付けられているものの、あまり不自然ではなかった。 元々、目力のある方だ。 それに輪がかかっただけのこと。 だけど縁を濃く引かれたラインが異国情緒を醸し出していて ……目が外国人みたいだ、と呟いたら 女子たちが笑った。 さらに、パンツやブラジャーまでもがちゃんと用意されていて 有り難い事にノーパンがバレなかった。 そこだけには物凄く安心。 だってさ、ノーパンなんておかしいもん。 「だからこんなキレーな服を買ったのね」 「代表のお気持ちです」 「ふーん」 「さ、代表も香川先生もお待ちですよ、有馬先生」 ブレイドさんがまた、強そうな身体に似合わないくらいに優しい微笑みを満面に湛える。 「ねぇ、ブレイドさん」 「なんですか」 「なんで、ブレイドなの?」 「はははは、有馬先生も追及されますね」 スイと出された手。 あぁ、エスコートしてくれるのね? 「だって、ずっと聞きたかったの 白石の家に連れてかれた時から」 「分かりました、後程お話しいたします」 ブレイドさんの大きな掌に自分のを添える。 馴れないヒールにも優しい柔らかな絨毯を踏みしめて歩く会場フロアは人でごった返していた。 「代表に挨拶に参りましょう」 そう言えば、さっきは黒だったブレイドさんのネクタイが柔らかなピンク色になっていた事に気付いたのは、今になってからだった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

973人が本棚に入れています
本棚に追加