カルテ7

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何故、ボスが…… いやいや、当たり前か。 生存確認を怠った私が悪いのか。 陣内の熱が身体に伝わってくる。 ボスが後ろにいるのに、振り返れないのは 陣内の力が強くてそうできないから。 ……違うよね、怖くて振り返れないだけだ。 きっと怒ってるに違いない。 私はあの日約束したんだ。 “ちゃんと朝晩連絡する” って、いうのと。 “もう白石の全部に近付かない” って、いうのと。 「陣内、お願いだから、離して……」 「……なんで?」 「私、帰らなきゃ……」 少しの沈黙に力が籠った。 「香川センセのところに?」 そうじゃない、そうじゃないんだけど…… 「そう……」 ふーん、と鼻を鳴らすように どーでもいいような返事が頭の上から聞こえた。 「有馬さん」 「お願い、……陣内……」 掌をグーに握り締めた右手で 陣内の心臓の真上を叩いた。 強くでは、なく 小突く程度だったことに、笑える。 お願いしてる割には勢いのないそれに。 「いいですよ?」 陣内の声が少しだけ弾み 「じゃあ、おまじないかけてもいいですか」 悪戯っぽい言い回しが続く。 恐る恐る見上げると、窒息しそうなぐらいに色っぽく妖しく笑う陣内が…… 普段は真っ黒な髪が、ところどころをアカい金に染めるくらい、あかい、アカイ世界で私を見つめていた。
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