941人が本棚に入れています
本棚に追加
「うまいこと肋骨避けて刺してやがる」
「え?」
「さっきの患者もそうだけどな、確実に動脈切って
あれ、後腹膜までいってるな」
先輩が血にまみれたディスポを交換しながら呟いた。
「こっちのは肝臓、使いもんになるか分かんねぇぞ
……有馬」
ガサガサと術着を被ると
「ま、やるだけやってみようじゃない」
そんな風にニヤリと笑う。
なに?
先輩。
先輩は私が大学院にいた時にお世話になった4つ上の頼れる外科医。
当時は若い世代で群を抜いて凄腕で
多くを語らない癖にキメるところはキメる
唯一、尊敬できた人だ。
「こちら、佐藤 心宙(サトウミヒロ)先生です」
「佐藤です、今はB病院の救命にいます。
飛び入りですが、仕切らせてください、宜しくお願いします」
そう言いながら手を出したそこに、メスが置かれる。
佐藤先輩は、迷わず身体にそれを這わせた。
血の海、とは正にこのことで
出血量からいえば、こないだのブレイドさんよりも多い。
輸血は全開に落とされている。
これは、コントロールしながら早目に片付けないとだめだ。
人を刺す、というのはなかなか力がいる。
さっき、先輩が言った“肋骨を避けて”と言うのがほんとに引っ掛かった。
最初のコメントを投稿しよう!