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基本検査と動脈ガス分析を見た結果、腎臓にも損傷があると判断した通りだった。
創口が狭く、ほぼ水平に刺入(シニュウ)されたのは刃渡りの長い有尖片刀器(ナイフ等)。
これを肋骨と肋骨の間に狙い刺し、しかも、動脈を確実に捉えるなんて。
普通の人間じゃ無理。
「ザックリだな」
「腎臓は……いけます。
……DC(ダメージコントロール)はいらない」
「何分で?」
動脈の出血を一時留める為に挟んだ柑子を避けながら、触診する。
「20分」
「マジか!有馬」
「マジです」
ザワリ、とする周り。
「望絵先生、調整するよ」
三原がいつも通り不抜けた声を出した。
「お願い」
「後ね、結構ヤバイ状態だから、ほんと
二人とも手早くして下さい」
三原の手元は口調とは真逆、忙しなく動いていた。
麻酔医は、救命治療の要だ。
私が、無茶ぶりできるのは、周りのスタッフのお陰なんだ。
「じゃ、有馬先生、お手並み拝見、……久しぶりに」
「はい」
口では20分と叩いたけれど
何が起こるかは分からない。
どれもこれも慎重に探さなければ。
「体温は?」
「34度5分」
「腎温存で環境回復させます」
「おいおい、有馬、お前相変わらず強気だな」
先輩のゴーグルの奥、茶色い瞳がにこやかに私を睨んだ。
「やれるとこまでやります」
「望絵先生、素敵!」
「なんだココの現場は。みんな、押せ押せだな」
周りのみんなは何も言わない。
ただ、ちょっと控えめに笑うだけだった。
みんな、なんとかなると思ってくれてるんだろうか。
それとも、またメチャクチャ言いやがって、と呆れてるんだろうか。
「……有馬、すげえなお前……」
先輩が呟いた。
残せるものは最大に残したい。
いつもいつもそう思っている。
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