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そんなもん見せてもどうなるってもんでもなかよ。
しかもどう見たってまだまだ20代、いや見ようによっては10代でしょ?的な可愛こちゃんだ。
それにひきかえ、私もう40ですが?
人生の半分くらいしか生きてない子に何を立ち向かおうっていうのさ。
ふぉぉおん、と静かなエンジン音が目の前を抜けて行った。
真っ暗に入り込んでいくように走り去った車の後ろ姿を見て大いに力が抜ける。
見上げた夜空にまっ金色のお月さん。
下半分が欠けたそこに棚引く紫の薄雲が大きく笑った口のようだ。
なんだよ、月まで嘲笑うのか。
なに、これ。
白石が死ぬ前に散々コケにした報いか。
そもそもブレイドさんが陣内の家に行けば?なんて言うからだ。
……最早、人の所為にしまくってる自分がイタい。
「帰ろ……」
なんだよ、よえー。
ポソ、と呟いた。
ああ、またこれでなんかモヤモヤした日々を過ごすんだぜ。
いい加減に仕事に支障が出るかもだぜ。
そんなことになったら商売あがったりだ。
「で、どこに帰るんですか?」
「へ?」
不意に目の前が暗くなり、影がニュッと私を覆う。
「どこに、帰るの?
有馬さん……」
眩いまばゆい下弦の月。
幾重にも煌めく光に重なったのは
金色に縁取られた陣内だった。
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