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「な、なんで……」
口が、唇が、人間どんな窮地に立ったらこんな風に波打つんだ、というくらいにおかしな震え方をする。
ちょっと前に、陣内の弟クソザルが
with朝陽でハチャメチャカッコよかったけど。
不覚にも思ってしまった。
with月光でチビルくらいヤブァい。
「丸見え」
「へ」
「隠れたの丸見え。
うちの門、格子だしね?」
「あ、あー……」
陣内の顔は、逆光でもよく見えた。
自信に満ちたその小綺麗な造りは金色の僅かな輝きを纏い、恐ろしくミステリアス。
「ま、いいや。行きましょう」
「わ!」
掌を拐われた。
勿論、引かれた身体はいきなり始まった運動に対して一度傾き、バランスを取るため、あちこちに力を入れる。
格子の門を開き
玄関まで進み、ドアを開ける。
そう言えば、玄関は初めてだ。
こないだは横から上がってきたんだ。
ちょっと甘い匂いのするそこは、やっぱり綺麗に片付けられていた。
「あ、有馬さん」
靴を脱ごうとして、呼ばれて顔を上げる。
突然、迫り来る陣内を避け切れず合わさった唇に
早くもパブロフ。
私のお陰で随分パブロフも有名になっただろう。
陣内の口の中は熱かった。
いつも、私よりも体温が高いこの男。
私は末端冷え性で、夏でも手先も足先も冷たい。
鼻も頬もくっ付いているのに
唇だけが浮いたり、付いたりを繰り返す。
ああ、パブロフが
完全に蝕み
色んなところに噛み跡を残していく。
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