カルテ7ー2

18/30
前へ
/36ページ
次へ
あぁ、ごめん…… 極小の音が聞こえて 瞑っていた瞼を持ち上げる。 眼鏡を介さないその威力の凄さをまた目の当たりにした。 どうしてこんなにも揺すぶられるのか。 どうしてこんなにも潰れそうに、なるんだろう。 胸の奥の、喉の下の方から満たんになってくる 湧き出て直ぐにいっぱいになるその感覚は 陣内といる時だけの特別なものだ。 手を伸ばした先の黒い髪のナカに指を滑らせて引き寄せると、陣内は呆気なく私に撓垂(シナダ)れ、唇を合わせながら呟く。 また、ごめん、と。 何が、ごめん? 何に、ごめん? 私の疑問をすぐに解決する。 「勃っちゃった……」 至極真面目腐敗(シゴクマジメクサ)った陣内は ふふん、と鼻で満足そうに威張り ペロりと舌を覗かせた。 上下2箇所の鍵をかけると自動的にドアガードが作動して勝手にガチャりと音を立てる。 最近の家はこんなにもセキュリティに富んだことができるのか。 「ほら有馬さん、早く上がってください」 リビングは二階。 そこに入ると明らかな痕跡。 綺麗な白地のカップに可愛らしいピンクの花が描かれている。 ソーサーの上にはシルバーの小さなスプーンが乗っかっていた。 ムスムスと這い上がってくるイタダケナイ感情。 嫉妬、と呼ばれるものだろう。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

941人が本棚に入れています
本棚に追加