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あぁ、ごめん……
極小の音が聞こえて
瞑っていた瞼を持ち上げる。
眼鏡を介さないその威力の凄さをまた目の当たりにした。
どうしてこんなにも揺すぶられるのか。
どうしてこんなにも潰れそうに、なるんだろう。
胸の奥の、喉の下の方から満たんになってくる
湧き出て直ぐにいっぱいになるその感覚は
陣内といる時だけの特別なものだ。
手を伸ばした先の黒い髪のナカに指を滑らせて引き寄せると、陣内は呆気なく私に撓垂(シナダ)れ、唇を合わせながら呟く。
また、ごめん、と。
何が、ごめん?
何に、ごめん?
私の疑問をすぐに解決する。
「勃っちゃった……」
至極真面目腐敗(シゴクマジメクサ)った陣内は
ふふん、と鼻で満足そうに威張り
ペロりと舌を覗かせた。
上下2箇所の鍵をかけると自動的にドアガードが作動して勝手にガチャりと音を立てる。
最近の家はこんなにもセキュリティに富んだことができるのか。
「ほら有馬さん、早く上がってください」
リビングは二階。
そこに入ると明らかな痕跡。
綺麗な白地のカップに可愛らしいピンクの花が描かれている。
ソーサーの上にはシルバーの小さなスプーンが乗っかっていた。
ムスムスと這い上がってくるイタダケナイ感情。
嫉妬、と呼ばれるものだろう。
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