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「もう38ですよ」
陣内がビールを飲みながらだらしなく寛(クツロ)ぐ私の目の前に二つの皿を差し出す。
オレンジとイエロー。
オレンジは人参と玉ねぎ?のサラダ。
イエローは……見て唾液腺がキュ、と締まって
ちょっと痛くなった。
さらに、これはパブロフだ。
グレープフルーツ。
陣内が好んで食べるフルーツ。
「健康的なつまみだわね」
「当たり前、有馬さんにはこれから大仕事が待ってますからね?」
キリリとするくらい真面目顔を見せた陣内が
その唇を少しだけ薄く引く。
「大仕事?」
「そう」
「……なによ、それ」
「妊娠と出産」
時間が止まった。
陣内の強烈な裸眼ビームが確実に私を突き刺している。
いやいや、違うだろ、陣内よ。
「……帰る」
「ダメ、帰しません」
立ち上がってはみたものの……このまま突っ切っても陣内に行く手を阻まれて、陳内に手篭められるに決まってる。
私だっていい加減に学習する人間なんだ。
いつまでも仕事ばっかりだなんて言わせないぞぅ!
「あんたさ、人の話、聞いてた?」
「どんな話ですか?」
「私、子供はいらない」
「オレは欲しい。
有馬さんと、オレの子供」
コイツ。
私の昔の事を知ってる筈なのに、よく言うよ。
「もう、二度と産みたくない」
グビグビと缶を煽って喉を鳴らした。
これで、どうだ!と、言わんばかりに。
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