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健康な身体、って
健康な時にはどんなに素晴らしいのかその価値を分からないでいる。
風邪でも怪我でも
それを損なって有り難みが分かるなんて
人間うまく出来すぎてる。
そりゃ中には、健康でいるうちから
その凄さに気付く人もいるかもしれない。
だけど、大部分の人が経験した筈だ。
なんともない、って凄いことなんだって。
だから元気になるために、惜しみなく応援するよ。
「有馬先生もですか?」
首を少しだけ傾げて
恐る恐る覗き込むようにしてこっちを見てくる加倉井さんに
「もちろん、出来ることがあればするよ?
ただ、無茶はできない。
私に出来ることは、限られてるから……」
はぁ、と吐いた息が震えたのが分かった。
「加倉井さん、ゆっくり呼吸して?
車椅子!
車椅子持ってきて!!」
途端に唇の端の色がメリメリと紫の筋を散りばめた。
チアノーゼだ。
ほらみろ、言わんこっちゃない。
「有馬先生!」
「今本、心外に電話!
患者は加倉井さん」
「分かりました!」
心電図もエコーもMRIも、かなり進んだ炎症。
本人は、不整脈を自分で分かるくらいに脈が飛んだりしてるはずだ。
痛みや、苦しさっていうのは同じ進行具合でも人それぞれだからあてに出来ないが
「加倉井さん、大丈夫だから」
「……っ、すいませ」
「謝らない。
言ったでしょ?出来ることをするって」
ストレスがかかり過ぎても
もともとの何か、原因があっても、いつ何が起きるか分からない心臓を抱えて怯えながら生きていかなきゃいけないこの子に、出来ることはしてあげたい。
だけど、それは私がオペに参加することではないと思う。
「お願い、せんせ、い」
「ん?」
白い肌に、薄く抜ける青い血の筋が
何本も何本も浮き出ていて
ほんとに透けてしまいそうだと思った。
「陣内せんせいを、わたしに
私にくださ」
ケホケホと咳き込みながらも
「私に、譲ってくださいっ」
そう訴えて
苦しさに耐えながらこっちを見上げた加倉井さんの顔は
儚くも、物凄く美麗で
あまりにも綺麗すぎて、背中の薄皮がサクリと剥がされていくみたいに感じた。
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