カルテ8ー2

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(※症例の経緯につきまして…… 皆様の気分を害するような表現にあたるかもしれません。是非、自己喚起いただきと思います) 陣内の腕が埋まっていく。 不思議な光景だった。 胎盤の組織が子宮の筋肉に入り込んでしまう原因は 経産婦にみられることが多く 帝王切開痕、 先天性の疾患があったり、過去の施術に対する何らかの傷に関係があるとされている。 彼女は、私が白石にいた6年の間で 3度も堕胎の処置をした。 今度はちゃんと妊娠をして出産をしたのに その時に出来たであろう何らかの傷に 胎盤の組織が入り込んでしまったのか、と 思わざるを得ない。 叫び声は次第に大きくなり 陣内の掻き出しが本格的に始まったことを知らされる。 そう。 気を失いたいくらいの痛みであるにもかかわらず そうならないのは 無くなりそうな意識を覚醒するほどに激しく、熱い痛みが全身を貫くからだ。 毟り取る、という表現が正しいんだと思う。 出産前に判明 するという事はほぼ、難しく そうなった原因でさえ、全てが終わった後にしか分からない。 全身が強ばり、ガタガタと施術台が揺れる。 固定された足を閉じようと働く無意識と 痛みから逃れようとするヒト本来の反射。 一際大きな、喚きが上がった。 「有馬さん、エコ、見て」 右腕を真っ赤に染めた陣内がそこから退いた。
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