カルテ8ー2

2/36
946人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
今年の夏は暑い、と言われていたように 照りつける陽射しの勢いがだんだん強くなってきて たったの10分 たった10分、外にいただけなのに ジリジリと膚を焦がすくらいの光線が降り注ぐ。 「あっついなぁ」 すっかり一緒に通勤してくるようになった 陣内と私。 当たり前だ。 一緒にいることが多くなったからだ。 休みが合えば必ずどちらかの家で アラレもない営みを繰り返し、パリダカ並のレース展開に縺れ込む。 「有馬さん、どっかリゾートに行きましょう」 「は?」 「海の傍のコテージ、いいですよ」 「いつ、行けるのよ どんだけ休まないといけないのよ。 だいたいボスが休みくれる筈ないじゃん、バカ者」 口元に拳を当てて少し考えた陣内。 「新婚旅行なら誰も文句言」 「しません」 結婚なんて、まだ考えてない。 いや、もう40だしね? だけど、考えらんない。 「有馬さん……」 「なによ」 この手の話題は、陣内の得意分野だ。 結婚が何たるか、を語らせたら コイツの右に出る者はいない。 私と一緒になりたくて仕方がないこの男は 私なんかを相手にしてる所為でかなり婚期を逃している。 「勃った」 「はぁ!?」 ビックリして振り返ると 黒セルの眼鏡、そのレンズいっぱいに眩しい光を反射させながらニヤリと笑った陳内。 「着いたら、例の場所に」 一気にいつもの真面目ド腐れ顔で諭されて 「はぁあぁ!??」 「急ぎましょう」 「ちょ、っ、ちょっと!」 手首を掴まれ、ただでさえ暑い中を小走りで駆け抜ける。 背中を額を、汗が流れていく。 そして、パブロフの私はもう一つ、別のものも 流れ出す。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!