カルテ8ー2

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心筋炎は、風邪のウィルスで発症することが多い。 加倉井さんのカルテにも 風邪の初期症状が記されてあった。 咳、発熱、倦怠、喉の痛み、胃のムカツキ 消化器症状もよく風邪に付属するものだ。 ただ、彼女の場合、2歳の頃に心筋炎を発症していて、心臓にかかる負担は人知れずあったはず。 発症のない同年代と比べれば尚更だ。 定期的に受けていた検査でも 所々に見られる不整脈。 所見的には経過観察の余地だが、突っ込んで見てみればはたしてそうだったのか。 ま、向こうで専門医がそう言ったんだからそうなんだろうけど。 「このところ、一気に体調を崩してな? 本人、なんか思うところがあって無理したらしい……」 「無理……ですか」 「まぁ、それは後で話すとして…… この状態で、病理結果が出れば、薬物治療から開始するが……例え治癒したとしても 心不全は避けられない」 「……移植、ですか……」 心外の教授が、はぁ、と溜め息を吐き出した。 「様子をみてからだけどな」 「……本人は、辛くないんでしょうか、今」 「あー、まぁ、彼女を支えてんのは別もんだからな……無理してる気にはなってないんだろう」 ……別もん、ってなに。 ますます不安だらけになってくる。 イガイガする。 喉の下の、胸の奥。 「あ、そうだ、有馬、今日彼女の心エコー、もっぺん診るからお前も立ち会ってくれ」 「あの、……先輩、私がここにいる意味が分からないんですけど……」 自分の知らないところで勝手に話が進んでいて 自分の意思とは無関係に筋道が通っている。 いつも、私の人生はこうだった。 「……有馬 移植、となると、腕の立つ医者がいるんだ。 しかも、的確に短時間で問題があっても直ぐに対応できる医者が」 だから、なに、先輩。 膨らむのはイガイガばっかりじゃない。 モヤモヤも、ズクズクも、全部、全部だ。 「年間で心臓ばっかり扱う医者がたくさんいますよ? ほら、なんだっけ、最近もW先生のハートセンターとか、近くな」 「有馬、手伝ってくれないか」 どうして、私なんだ。 「頼む」 先輩が頭を下げた。 なんで、私、なの。
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