カルテ8ー2

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いつでも被さってくる荒い波。 人生を航海だと例える偉人もたくさんいたけど 私のもそうなら 船なんか有難いものに乗らせてはもらえない。 あてもない、辿り着く目標さえない ただ、ただ、ひたすらに泳いでいるだけだ。 イカダさえ与えて貰えず たまたま知り合った鯨とかイルカとか ちょっとだけ休ませてもらったり “いいよ、背中に乗れよ”的なその時だけの都合で良くしてもらって 最終まで面倒は見てもらえない。 「勿論、直ぐに返事が欲しいとは言わない だけど、時間がないことだけは」 「お断りします」 その場の空気が凍りつく、というのは こういう事を言うんだ。 「先輩、言いましたよね? 私、心臓に関してはド素人です、って。 きっと、教授も主任も不思議に思っていらっしゃるはず」 「あり」 「ですから、もっと慣れていて、多数の症例をこなされている方の方がよろしいかと」 それが普通だし、当たり前だし、最適だ。 「しかも、加倉井といえば大きなお家柄ですよね? きっと私なん」 「その加倉井からのご指名だ」 なんでだ。 なんで、加倉井が私を指名なんてする? 答えは 決まってる。 ……白石だ。 白石が加倉井と手を結ぼうとしたことも そこ、なのか。 沢山の違法を犯してきた、そこ、なんだろうか。 やっぱり私の一生は泳ぎ切ることの出来ない海、なんだろうか。
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