カルテ8ー2

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「それでも、私には相応しくないと思いますが?」 患者を見捨てるのか、と問われれば そう思わざるを得ない。 これは医師としてあるまじき行為で 先生がいたとしたら、間違いなくしばかれる。 “有馬、お前は医者なんだ” 医者って、呼ばれるのには医師免許が必要です。 そう言い返したあの頃が懐かしい。 先生みたいに免許を持たずにいても あれだけのスキルがあればそれは過言でもない。 そこらへんのだらけた医者なんかよりよっぽど凄いんだから。 「先輩、失礼しても宜しいですか?」 誰も何も言わない医局を 私も頭を下げただけで、無言で出た。 病棟は朝の忙しさで賑わっていて 所々からいい匂いが鼻をつく。 朝飯の時間なんだ。 「有馬!」 さっきと同じように肩に重みがかかった。 「先輩……」 「なんとか、考えてくれないか」 「先輩、しつこい」 もうね、もうウンザリなんです。 白石とか、大きな権力とか もうイヤなの。 ね、分かる?先輩。 先輩みたいにちゃんと段階踏んで医者になった訳じゃないんだよ。 ……なんて、言えたら楽だろうか。 「有馬……加倉井の指名だとは言ったが…… それを聞いてこの話を受けたんだ」 「は?」 「有馬が噛んでるから、引き受けた」 「いやいや、噛んでもないし、こんな話 先輩から聞くまで知らなかったし」 「有馬」 肩から滑り落ちた手が私の手首を掴んだ。
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