946人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
肉を食いたくなるのは
自分の中で何かが崩れた時だ。
しかも今回、49にく(至急肉)。
そんな緊急性のあるもんなのか、と
驚いたに違いない。
「やば……」
でも、肉がたりないのは事実だった。
“肉、食いたいです”
ボスは私のことをよく理解してくれている。
だからこうして“おニクコール”をする時は
きっと何かあったに違いないと
“分かった”
思っているはず、だ。
また、直ぐに返ってきたそれを見つめて
ジン、とする心臓をギュッと抑えた。
はぁ、とひと息落ち着けて、囲いから出ようとして
ちょうど階段から下りてきた陣内の姿を見た。
救命に行くのとは逆にあるここで、その背中を見送る。
きっと陣内は、加倉井さんのことを話そうとした筈なんだ。
だけど私、何を聞いても陣内を困らせることしか言えそうにない。
ごめん。
救命に辿り着くと、師長から声をかけられた。
「有馬先生、いたいた、あのね、心外の主任から連絡があって、なんだっけ?
エコーのクランケ、1時からだって」
傍にいた主任が
「師長ぉ、また古くっさい言い回しー」
なんてバカにしている。
師長くらいのベテラン時代にも、もうあまり言われなくなっていた筈なのに、付いていたドクターの所為でこっちのが楽だと言ってたっけ。
「周りから固める作戦か……」
「有馬先生、心臓やるんだって?
心外の教授が部長に挨拶に来てるってさ」
「え?」
今の、今、断ってきたばっかりなんだけど?
「断ってきましたよ、心臓なんて……」
「部長、喜んでたわよー!」
「は?」
ほら、また勝手に進んでる。
「ま、病院内で他科の繋がりがあるのはいいことだもんね、有馬先生にもプラスになるんじゃない?」
いやいや、だから。
「有馬さん!」
ああ、また、ややこしいのがきた。
「どこにいたんですか」
「……そんなのわたしの勝手だ、バカ者」
後ろからかかった声に振り向きもしない。
「あ、じゃ1時ね、有馬先生」
そんな1時、なんて言われてピッタリ足を運べる訳ない。
オペに入ってたらどーすんだ。
内臓切ってる時にさ
「あ、じゃ、1時だから」ってな感じで出られるかっつの。
「アホらし」
「有馬さん」
「なによ、陣内」
「加倉井さんのことですけど」
「……なに」
「昨日オレに会いにきたのは、加倉井の会長です」
だから、なんだっての。
だいたい、今ここで、する話か。
最初のコメントを投稿しよう!