カルテ8ー2

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肉を食いたくなるのは 自分の中で何かが崩れた時だ。 しかも今回、49にく(至急肉)。 そんな緊急性のあるもんなのか、と 驚いたに違いない。 「やば……」 でも、肉がたりないのは事実だった。 “肉、食いたいです” ボスは私のことをよく理解してくれている。 だからこうして“おニクコール”をする時は きっと何かあったに違いないと “分かった” 思っているはず、だ。 また、直ぐに返ってきたそれを見つめて ジン、とする心臓をギュッと抑えた。 はぁ、とひと息落ち着けて、囲いから出ようとして ちょうど階段から下りてきた陣内の姿を見た。 救命に行くのとは逆にあるここで、その背中を見送る。 きっと陣内は、加倉井さんのことを話そうとした筈なんだ。 だけど私、何を聞いても陣内を困らせることしか言えそうにない。 ごめん。 救命に辿り着くと、師長から声をかけられた。 「有馬先生、いたいた、あのね、心外の主任から連絡があって、なんだっけ? エコーのクランケ、1時からだって」 傍にいた主任が 「師長ぉ、また古くっさい言い回しー」 なんてバカにしている。 師長くらいのベテラン時代にも、もうあまり言われなくなっていた筈なのに、付いていたドクターの所為でこっちのが楽だと言ってたっけ。 「周りから固める作戦か……」 「有馬先生、心臓やるんだって? 心外の教授が部長に挨拶に来てるってさ」 「え?」 今の、今、断ってきたばっかりなんだけど? 「断ってきましたよ、心臓なんて……」 「部長、喜んでたわよー!」 「は?」 ほら、また勝手に進んでる。 「ま、病院内で他科の繋がりがあるのはいいことだもんね、有馬先生にもプラスになるんじゃない?」 いやいや、だから。 「有馬さん!」 ああ、また、ややこしいのがきた。 「どこにいたんですか」 「……そんなのわたしの勝手だ、バカ者」 後ろからかかった声に振り向きもしない。 「あ、じゃ1時ね、有馬先生」 そんな1時、なんて言われてピッタリ足を運べる訳ない。 オペに入ってたらどーすんだ。 内臓切ってる時にさ 「あ、じゃ、1時だから」ってな感じで出られるかっつの。 「アホらし」 「有馬さん」 「なによ、陣内」 「加倉井さんのことですけど」 「……なに」 「昨日オレに会いにきたのは、加倉井の会長です」 だから、なんだっての。 だいたい、今ここで、する話か。
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