カルテ8ー2

35/36
946人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
予想してたことだ。 だって、陣内だもん。 見た目、パーフェクトに近いでしょ。 しかも医者だし。 ……白石だし。 最近の若い子は ちょっとオヤジが好きらしいじゃない。 陣内はなんとも思ってなくても 女子高生はそうはいかないでしょ。 「あの、陣内先生にはちゃんと断られているのですが!あ、要は……私が勝手に好きなのです」 だから、そんなに興奮しないで。 お願いだから。 「そうなの」 ゆっくりと、静かな音で一言。 だからあなたも落ち着いて。 「あ、はい……」 顔が小さいからか、ヤケにマスクが大きく見えた。 パッと顔をあげたと思ったら サックリと言いたい事を投げてくる。 「陣内先生の力を借りたくて ちょっとの間でいいので、陣内先生の力を借りたくてここの病院に来ました」 綺麗な、目。 いいなぁ。 羨ましい。 18?18の時なんてさ、大学に行くためのお金をどうやって作るか、ばっかり考えてたよ。 身体は丈夫だったからさ あんなことが出来たんだけど。 だから、ここに居るんだけど。 今までの人生の道のりが色で見えるアプリがあったら 加倉井さんの後ろには白 私の後ろには黒 それもコールタールみたいなドロドロの色が見えるだろうよ。 「だから、有馬先生…… 少しだけ陣内先生を 私に貸してください」 こんなことを言うなんて 最近の女子高生は 「あの、貸し借りとか、図々しいとか バカなことを言ってるのもわかってます」 きっとこんなことを大人に言うのは この子にしたら大変なことなんだと思う。 また少し興奮が見える。 「加倉井さん、私に言わなくても 陣内先生はちゃんとあなたに力を貸してくれるわよ。 陣内先生だけじゃない、佐藤先生だって他の先生だってみんな」 「……あ……」 「あなたが元気になる手助けをしてくれる」 ゆっくり紡いでいくのは 彼女の興奮を引き摺らない為だ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!