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「……家内が他界したのは、もう10年前で
あの子も多感な時期で、……というのは理由にはなりませんが……叱って下さったことに感謝します。
ご迷惑をおかけすることも重々承知のうえです、どうか、どうか宜しくお願いします」
テーブルに額が付きそうなくらいに頭を下げた加倉井父。
「……加倉井さん、頭を上げてください」
こっちが恐縮してしまうくらいの
律儀&殊勝な態度はブレイドさん以上だ。
「有馬先生……私はあなたにお会い出来る立場ではないのが本来ですが……」
「はい」
「教えてください。
……状態は良くはないと聞かされています」
「…………」
加倉井父の言いたいことは分かる。
娘のことだもん、なんとかしたいに決まってる。
「……移植については、どうなのでしょうか……」
……それは、どういう意味なんだろうか。
「最悪の場合、移植もあるということで
お話をさせていただいたのではありませんか?」
「その場合は直ぐに移植してもらえるんでしょうか」
「移植にはある程度時間が掛かります。
臓器提供ネットワークに登録して
娘さんに合うドナーが見つかるまで
……緊急レベルが1だったとしても、直ぐの場合もありますし、そうでない場合もあります。
それにまだ、移植をしなければ、という段階では
……」
「……そうですか……いえ、すみません、失礼しました」
親なんだから娘を一番先に、という思いは当たり前だ。
そんな場面を今まで何度も見てきた。
それに、この人はやっぱり私の何もかもを知ってるんだ、と思った。
知ってて
……白石のことも含めて、直ぐに、ということなんだと思った。
私はもう白石の人間ではないのに……
いつまでアンタの策略に埋まらなきゃならない?
私が、選んだ“ハジマリ”は全部白石の手の中だったんだ、と
ほんとに今更ながらに、明らかになって
まじで、落ち込む。
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