カルテ9

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「……家内が他界したのは、もう10年前で あの子も多感な時期で、……というのは理由にはなりませんが……叱って下さったことに感謝します。 ご迷惑をおかけすることも重々承知のうえです、どうか、どうか宜しくお願いします」 テーブルに額が付きそうなくらいに頭を下げた加倉井父。 「……加倉井さん、頭を上げてください」 こっちが恐縮してしまうくらいの 律儀&殊勝な態度はブレイドさん以上だ。 「有馬先生……私はあなたにお会い出来る立場ではないのが本来ですが……」 「はい」 「教えてください。 ……状態は良くはないと聞かされています」 「…………」 加倉井父の言いたいことは分かる。 娘のことだもん、なんとかしたいに決まってる。 「……移植については、どうなのでしょうか……」 ……それは、どういう意味なんだろうか。 「最悪の場合、移植もあるということで お話をさせていただいたのではありませんか?」 「その場合は直ぐに移植してもらえるんでしょうか」 「移植にはある程度時間が掛かります。 臓器提供ネットワークに登録して 娘さんに合うドナーが見つかるまで ……緊急レベルが1だったとしても、直ぐの場合もありますし、そうでない場合もあります。 それにまだ、移植をしなければ、という段階では ……」 「……そうですか……いえ、すみません、失礼しました」 親なんだから娘を一番先に、という思いは当たり前だ。 そんな場面を今まで何度も見てきた。 それに、この人はやっぱり私の何もかもを知ってるんだ、と思った。 知ってて ……白石のことも含めて、直ぐに、ということなんだと思った。 私はもう白石の人間ではないのに…… いつまでアンタの策略に埋まらなきゃならない? 私が、選んだ“ハジマリ”は全部白石の手の中だったんだ、と ほんとに今更ながらに、明らかになって まじで、落ち込む。
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