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「あいつは、動物みたいだったな」
「は?」
「鼻が効くって、いうか……」
「は、な?」
「そう、損傷部位の特定も速くてな?
しかも、お前と同じだ……組織を合わせるのがうまい」
「……」
「骨つぎはお前よりうまいだろ」
確かにそうだ。
「陣内恭志郎の血を引いているのは確かだ、と思ったよ」
「……先生の、血?」
「陣内先生は元々軍医だったと聞いてる」
「軍医?」
「そう、アメリカ軍のな?
日本に帰ってきて、医師免許がないのは当たり前。
だけど腕はピカイチだからな。
国の一大事にかかわる重要人物のオペなんかは彼が何枚か噛んでる」
驚きだ。
でも、そんな先生のいた白石醫院が“違法の合法”だと言われたことが肯(ウナズ)ける。
「白石醫院のバックには国が付いてる。
やってることは違法だけどな。
例えば、臓器提供に関しては、特に。
適合さえすれば、患者は喉から手が出るくらい欲しいだろ?
それを、多額とはいえ金を払えばまっ先に受け取れるんだ」
ドキっとした。
なぜ、……なぜ今、この話になるんだ。
タイムリーすぎる……。
ハンドルを握るボスの横顔は
いつもと同じく彫りの深い、落ち着いた眼差しで
目の前だけを見つめていた。
「ちゃんと順番待ちしてる者にとったら迷惑な話だよな?
……望絵、聞きたくないかもしれないけどな
お前が扱った“移植”に関するオペ、何件だか知ってるか?」
「は?」
目の前の信号が赤に変わったのが、ボンネットに映るその光で分かった。
ゆっくりと踏み込まれたブレーキ。
不愉快ではない筈なのに、どうも居心地がわるくなったのは、きっとボスの質問の所為だ。
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