カルテ8ー3

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目の前でイイ肉を焼いてくれる鉄板焼きのお店。 魚介も豊富で蟹を食べたら既に満腹になりそうだった。 カウンターに対して鉄板が一段高いところにあるので独特の焼肉臭が付きにくいんだとか。 広い贅沢なつくりの店内は、小さなワインセラーまである。 美味しいはず。 絶対に美味しいはず。 なのに。 「お前……病んでんな」 帰りは代行を頼んだとかなんとかで すっかりブドウを嗜んでいるボスが呟いた。 「私……なんで医者なんかやってんだろ……」 最近はタンブラーでブドウを飲ませてくれるところが多くなってきていて このお店も、そのタンブラー。 脚の細いグラスとは違って安定感があっていい。 でもちゃんとワインとスパークリングのタンブラーの種類が違う。 私は、ワインは飲まない。 飲まないのは赤に限るが 飲んだら……裸族になるからだ。 赤を飲んで何度も失敗した。 もともと、26までアルコールには何一つ耐性がなくて飲めないものすら分からなかったんだから仕方がない。 ま、どうでもいいことだけど。 「で、望絵はどうしたいの」 「は??」 今日は焼かなくていいボスが帆立を美味しそうに口に運んだ。 ホントはいつもこうやって落ち着いて食べたいのかもしれない。 それを私が無理矢理焼き当番にしていたんだ。 は?いまさらだ。 「望絵、お前が医者になったのは、なんでだ」 「えっと…………センターの結果がビックリするほど良かったから」 「……それだけか」 「はい」 途端に難しい顔をしたボス。 受ければいいじゃん、って 産院のドクターが言ったからだ。 だから、あ、そーなの?って。 どこでも良かったんだ。 国公立で、将来食いっぱぐれない仕事ができるなら。 「お前が医者、っていう仕事を選んだのは、奇跡だな。 天性を活かせる仕事に就けるなんて、運が良かったな」 今度はボスの顔が緩んだ。 非常に楽しそうだ。
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