カルテ8ー3

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「医者になって良かっただろ。 凄まじい環境の中で養われた経験は知識に勝る。 お前が一番よく分かってるだろ? お前はホントにツイてる。 オレにも嫉妬させるくらいの腕だからな」 「ええっ?」 「なんだ、知らなかったのか」 「ええ、知りませんですとも!!」 「そうか まぁ、またそれは別の機会に」 楽しそうに笑うボスと あんぐりと口を開けた私の前に フィレステーキが並んだ。 「旨いな、望絵」 「……ボス……いつも焼かせてばっかりで、ごめんなさい……」 ボスが箸を肉に伸ばした手を止めてこっちを見た。 「なんだ、お前、うまい事言うな。 大喜利の才能もあったのか」 またまた笑いながら頬張ったフィレは その後、私が全部平らげた。 ボスはやっぱりボスだ。 私のことを理解してくれて、諭してくれる。 この人に出会わなければここにはいなかった。 「ボス……」 「なんだ」 「私、ボスのこと、好きですよ……」 「なんだ突然の告白だな…… って、おい! お前、それ飲むな!」 口の中には既になんとも言えない重っくるしい コクの深い味が広がった。 「ぁぁ、飲んじゃった」 「飲んじゃったじゃ、ない! あ、オレがこっちに置いたからか あー、水飲め、水!」 「大丈夫ですよ、1杯ぐらい」 ボスが凄い顔でこっちを見た。 「いや、飲みなさい、ほんとに飲みなさい。 ガブガブ飲みなさい!!」 「もー、ボス!大丈夫だってば」 大丈夫。 大丈夫ってさ、どこが何をどうなってたら大丈夫だって言うんだろうか(2回目)。 酔っ払いの私を置いて帰れる筈もないボス。 「待て、望絵、ちょっとまて!」 「ふぇ」 「ふぇ、じゃない!待て! こら、お前!!」 マンションに帰って玄関で沈没。 泥酔状態の私をベッドへ押し込めて 「寝てろ、頼むから寝ててくれ!」 ボスはそう言って、裸族の私を残して帰っていった。 そして、夜中のチャイムにさえ気付かずに爆睡をかます私に制裁が下る。
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