カルテ9

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娘がこんな時だから、元気がないのか それとも この人も、私がどうかかわっているかを知ってるからこんなに無感情なのか。 「こんな時間に失礼かとは存じましたが、なかなか時間が取れずに……」 申し訳ない、と小さな声を挟む。 「有馬先生はとても優秀なドクターでいらっしゃると伺っていて、私が……お願いしました」 試しているのだろうか。 私が……彼女のケアチームに参加すると 先輩に告げたのは、あの日 陣内が心配するな、と言った次の日だ。 そうならざるを得ない状況……だったはず。 それに 私には何一つ責任はないと言うものの どうしたってそれを感じずにはいられなくて。 ……当たり前だ。 ……いや、当たり前なんて図々しいのかも。 「加倉井さん…… あの、…………私は医者ですから…… 何か出来ることがあればお手伝いすると申し上げただけです」 大したことでは、ない。 「……そうですか」 と、ボソリ呟いた。 「あの、……経緯は、存じあげてますから…… だからと言って、何をどう、という事ではありません」 これで、分かるだろうか。 案の定、ほっ、とひと息吐きかけたそれを詰まらせるように止めた加倉井父は そのまま私を見つめて 「そうですか……」 また、呟き、寂しそうに笑う。 「そう、でしたか……」 「医者として、力を尽くします」 今度は私が頭をさげた。 「……有馬先生、……その節は、本当にありがとうございました…… 家内も必ずそう伝えた筈です。 ありがとうございました」 も、とか はず、とか…… ひょっとしたら、と思わせるような言葉尻。 「仕事をしながら、男手で育てたものでどうも甘やかしてしまって…… 娘が失礼を申し上げたことも、どうかお許しいただきたい」 ……失礼な、って、アレか。 って、そんなことも知ってんのか…… 「あ、気にしてませんし…… いや、逆に怒鳴りつけたのはこっちですから」 だから、そんなに謝らないでください。 慌てて作った笑いが左側に引きつった。
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