カルテ9

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その身体朽ちてもなお 魂の縛りは消えず 白石は疫病神だ。 加倉井と白石の間で どういう取り決めが成されたのか、それは知らない。 私はそれにいつしか従わなければならない時がくるんだろうか。 「有馬先生、どうぞ宜しくお願いします。 夜分に、大変申し訳なかった。 お会い出来てよかった……」 「いえ、わざわざこちらこそ、お忙しいところを出向いていただき、ありがとうございました。 誠心誠意、治療に当たらせていただきます」 加倉井父の後ろ姿を見送り 医局に戻るが、複雑な気持ちは変わらない。 さっきはいなかった陣内がソファで胡座をかいていた。 「有馬さん」 「なによ」 「深いシワはなかなか元には戻りませんよ」 「はぁ!?」 自分の眉間を指差しながら くそ、クソまみれ真面目クソった顔面をこっちに向ける陣内。 そこを二、三度モミモミっとしてから 目の前のミネラルウォーターを口に運ぶ。 悔しいけど 色っぽくて、目の保養になる。 なんだ、お前。 見た目がいいと人生における大半は勝ったようなもんだろ。 くっそう。 くそー! カルテを開いたのは勿論加倉井さんのものだった。 心筋炎患者の7割が感じる胸痛は強く 息切れと、動悸。 心電図に刻まれた不整脈の波形。 完全房室ブロックだ。 心臓自体の収縮力も低下していて、このままだと自力でのポンプができなくなる。 ……やっぱりこのままじゃ無理なのか、と 画面を見ながら、口の中だけで呟いた。
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