カルテ8ー3

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迷わずに向かうのは個室の一角。 多分、個室だと思ったのはやっぱりカグライというネームバリューからだ。 慌しくナースが出入りする部屋の前で壁に凭れているクソザルを見つける。 はー、画になるわぁ、あんた。 いやいやそうじゃない。 「ねぇクソザル、ちょっと顔貸してくんない?」 「なんだ、いよいよオレの方がイイって気付いたか」 「は?誰と比べてよ」 「決まってんだろ」 「……陣内と比べてんの? あんたとじゃ比になんないわよ」 「試してみないと分からないだろ」 「結構だ! そんなことより、ちょっと聞きたいんだけど」 「……なんだ、手短にしろよ」 クソザルにかかわることになるなんて 物凄く嫌だけど、この際仕方ない。 「ね、アンタは知ってんの?事情」 ちょうど私の真後ろの部屋の“事情”を親指でクイ、と示す。 首を傾げたクソザルは 「何のことだ」 そう言った。 「わたしに、彼女の治療チームに入れって その加倉井の爺さんとやらが」 「ああ、それ」 「…………」 クソザルは顎を上げ、面倒くさそうに私を見下ろす。 「勿論、と、言いたいところだが…… 膳立てしたのは親父だから、今となっちゃ真相は分からない」 「は?」 「お前はほんとーに親父に気にいられてたんだな」 「は?」 整った顔のパーツをイヤらしく緩めながら 「イイ意味でも ワルイ意味でも、な」 濁った言い方をする。 理由の分からない事を言うクソザルにお付きが耳打ちをした。 「じゃあな、闇医者」 「……そんなんじゃちっとも分かんないわよ」 「じゃ、聞けばいいだろ 比べもんにならないおにいさんに」 は? 陣内に? 陣内は知らないって言ったわよ。 いや、待て、惑わされるな。
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