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「とりあえず、これ書いてからにしましょう」
ほら、牙しまって?
なんて、綺麗な顔で微笑んでるんじゃねぇよ、陳内め。
40にもなって、反省文とかどうなのよ。
しかも、なんで原稿用紙とかあるわけ?
ヒラリと透かした紙に薄い緑の線で書かれたマス目がつまったそれを見て、はぁ、とまた息を吐き出した。
横目ではスラスラとペンを走らせている陣内が
私の反省の邪魔をする。
だいたい、何書けばいいんだよ、おらっ。
ガン、と蹴っ飛ばした机の足。
「有馬先生!」
医局の入り口から師長の怒鳴り声がした。
「すみ、ましぇん……」
何回目だかも分からなくなった反省文を
グダグダ書き綴っていると、入る邪魔は陣内だけではない。
「有馬!」
だから、お前はここの勤務医かっ!
だいたいお前の所為だ!佐藤!
キッ、と奥歯を噛んだ音と
びり、っと何かが破れる音がしたのがほぼ同時だった。
隣でスラスラと反省を認(シタタ)めていた陣内のペン先が、原稿用紙をウニュニュと引っ掛けたのだ。
どんだけ強い筆圧なんだ、的な……それ。
ああ、そうか。
陣内はきっと、私の近くにいる佐藤先輩があまり好きではないんだ。
「何やってんだ、お前……
あ、陣内先生も?」
私たちを覗き込んだ先輩の気配が
私の顔の横に近づいた。
「反省文?
なんだこりゃ」
「なんか用ですか、先輩!」
「あー、そうだった。
有馬、お前今時間いい?」
見てわからんのか!
いい訳ねぇだろっ!
くわっ!っと怒りが込み上げそうだ。
「私は今、猛反省中なんです、後にしてください」
ってか、もう来ないでくださいぃぃいぃいい!
心の中、大きな声で呟いた。
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