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「ああ、そうだ
聞いたよ加倉井から。
“有馬先生も力を貸して下さるそうです”って。
ありがとう、有馬」
「は?」
「加倉井が言ってたぞ
私が頑張ったら、喜んで力になるって言ってくれた、って」
いや、言ったには言ったが……
それはまた別の意味で
「有馬じゃないとダメな気がしてさ……」
「は?」
「お前が凄いのは、昔から分かってるけどな
こないだ改めて、な」
先輩が笑う。
この人は、いつも自信に溢れていた。
唯一、ああ、凄いな、と思えた人だ。
医者としてはね?
「コイツと一緒に組んだら何でも出来るんだろうな、と思った。
それに、治療の際の極秘事項、聞いたんだから
逃げらんねぇぞ」
その笑いをとたんに含み笑いに変えて
私を見下ろした。
「ん、なっ!」
「有馬……宜しく頼む」
スイと、頭を下げた先輩の
戻ってきた時の小憎らしい顔……
「いや、ヤルなんて言ってないし……」
「あれ、有馬センセー、出任せったー?」
「は?」
「病理の結果が出しだい、薬物治療から始めようと思ってる」
急に真面目な話題にするあたり
閑話休題で……このへんもムカつく。
「一旦ニュートラルに戻してから考えようと思ってんだ」
「多分、だいぶ拡がってると思いますよ?」
今日だってちょっとの興奮であんな風になるんだし
不整脈だって早くなんとかしないと。
「まあ、まずは実態把握、後でカルテのコピー持ってくるから」
「いや、だから!」
「有馬
お前の持ってるチカラを貸して?」
伸びてきた手が
何故だか頭を滑っていく。
なんだょ、みんな貸してとか譲ってとか
「じゃあな、あ、とりあえず色々決まったら連絡する」
医局を出ていく先輩の向こうに
陣内がいて
先輩は陣内にも声をかけていく。
真面目腐った顔の、黒セル眼鏡の奥が先輩から私に向けられてその整った顔を冷ややかに魅せる。
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