カルテ9ー2

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クソ代表ザルのお付きがスス、と道を開けた。 きっとこの人も陣内に飛ばされたんだ、と思う。 「有馬さん、大丈夫ですか」 複雑で妙な感じだ。 上手く纏まらない頭の中と 飲み込んでも呑み込んでもつっかえたままの塊。 「大丈夫……」 「有馬さん」 「なに」 先を速足で歩く私に追いつくなんて簡単なことで 明らかにおかしい態度を見せる私を 不審に思ってることも 陣内の怒りがまだ収まっていないことも想定内。 「有馬さん!」 肩を掴まれて、その歩みを止められる。 中指が鎖骨下に喰い込んでくるくらいに強く。 「何もされなかった?」 「されてないし、してない」 陣内の目ヂカラに対抗するように 一瞬だけ、そこに焦点を合わせて直ぐに前を向く。 「……そう」 「うん」 やけにあっさり引き下がるんだな、と思って また、歩きだそうとした。 「っ、わぁ、っ」 私の身体が進もうとした方向と 実際にそれが働いた方向は真逆で、どっちが強いか力の差は歴然。 「じんな」 「嘘吐きですね」 どうして従兄弟で同じことをするんだ。 白石の血はやっぱり基本、争えないのか。 引き摺られるように歩いて 「陣内っ」 いつものトイレの手前を左に曲がる。 「陣内っ」 そこから二つ目の扉の前でIDカードを翳し 解錠された扉の中は、救命の備品庫だ。 真っ暗な中に浮かび上がる緑色。 見慣れた非常出口のライト。 それが、急に目の前から消える。 正確には遮られた。 陣内に。 「な、誤魔化せるとでも思った?」 迫ってくる陣内を押し退けるように 顔の前を手でガードする。 これも無意識だったんだろうか、唇を手の甲で隠しそっぽを向くと、陣内が小さく呟いた。 「噛み付かれたか、智に」 もう、さっきからの短い時間で 何度目か分からないぐらいに息を呑んだ。
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