カルテ9ー2

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とりあえず我慢して良かったと思ったのは 救命に戻った直後、心外から連絡が入ったからだ。 『 有馬!今こっち来れるか!』 佐藤先輩の語尾の強さから きっと何かがあったに違いない、のは分かっているが 聞くよりも確認した方が早そうだ。 今朝の検温で少し熱発をしていた加倉井さん。 「主任、ちょっと心外、行ってきます」 「もどってきたばっかりなのに、大変、いってらっしゃい」 ヒラヒラと手を振ってくれるものの 救命だってザワザワと騒がしくて大変なんだ。 「すみません」 その慌ただしさを見て ちょっとした心苦しさを残し、また元来た道を戻った。 ちょうど病室の前で加倉井父に遭遇したが、頭を下げただけで通過する。 それどころじゃないかもしれないからだ。 ドアを開けると、先輩が加倉井さんを診ているところだった。 「どうしたんですか」 「うん、ちょっとな」 「熱は?」 「38度7分です」 記録を見て、経過をたどる。 入院した日からずっと微熱。 一昨日からは倦怠感もか…… 「先輩、変わります」 「ああ」 「加倉井さん、おはよう」 「おはようございます、有馬先生……」 枕に埋まったままの彼女は、儚くて綺麗だ。 あれから、まともに顔を見てなかった。 だから、ちょっと…… なんというか、不思議な感覚に襲われる。 それを払うように声をかけた。 「ダルそうだね」 「……はい、ちょっと……」 「そう」 「陣内先生は?」 「さっき来てたでしょ?」 「……うん……」 聴診では心音にも異常ないな。 呼吸も大丈夫。 意識は、元気はないものの、クリア。 だけど彼女の身体の中で何かが起こっていることは、間違いない。
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