カルテ9ー2

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「血圧高いね……あーんして」 タキってる(頻脈)な、随分。 喉も赤い。 「結膜、……黄疸、貧血マイナス」 「どう?有馬……」 「採血します、大丈夫かな」 「また採るの?」 「ごめん、こないだ採ったとこだよね」 駆血帯を巻いたその腕は細くて 血脈が透けて見える。 白い……。 周りの色に取り込まれるんじゃないかと思うくらい白い。 触れてみて、妙な感じが加速する。 この子が 私から出てきたんだと思うと なんとも言えない、何かに覆われた。 何度苦しい思いをしたんだろう 何度自分の身体を呪っただろう 融通の効かない身体に呆れたこともあるかもしれない。 我慢しなければならないことに失望したかもしれない。 今更、今更だけど。 「……有馬先生?」 「あ、ごめん、……」 瞼をゆっくり閉じて 私をぼんやりと見つめるその目が多少血走っていて 熱がある時特有の様子を醸していた。 ……モニターを確認すると、やっぱり熱自体も上がってきている。 間違いないと思う。 心筋炎のハシリ、だ。 風邪では、ない、と予想を立てる。 「ごめんね、……ごめん、採るね」 「有馬先生、ひょっとして、採血下手なんじゃ……あ、そんなこと、ないか…… あんまり痛くない」 狡い。 有馬望絵、卑怯だぞ。 採血管の中に溢れてくる血液を見つめながら そんなことを考えていた。
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