カルテ9ー2

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人の心臓は、妊娠が確定して 所謂、妊娠3週末には形成され、4週頃には既に拍動を始める。 力は弱くても、脈打つそれは 生きていることの証。 「心係数2か、……継続して」 こんなところで動かなくなったら許さないから。 加倉井さんは間違いなく心筋炎。 しかも急激にその機能を低下させる劇症型だ。 「佐藤先……生には?」 「連絡はしましたが……今緊急オペ中で」 「そっか…… このまま経観します」 「はい」 健康な身体があれば もっと、外の世界に出て 色んなことが出来る年頃なのに。 病室を出て、先輩にラインを飛ばす。 容態の変化と、処置と これからの対応について。 彼女の心臓は、もう大部分が蝕まれていて だけど生きようとしてもがいている。 助けたい、と思った。 まだ夜が明けたばかりの病棟は静かで 階段を駆け下りる音が響くそれで、自分から出る詰まる音を掻き消す。 何故今頃になって こんな事態になるんだ。 やっぱり、私が金欲しさに選んだ人生への呵責なんだろうか。 欲に眩んで飛び込んだのは 白石の手の中。 全て、総て、どれをとっても白石の引いた途(ミチ)を辿るしかない。
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