カルテ9ー2

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救命ではちょうど急患が運ばれてきたところだった。 「66歳男性、数日前から風邪をひいていて 体調不良だったもようです」 「有馬先生、入れる!?」 「かわります!」 聴診すると雑音だらけだ。 「体温、高いな モニターつけて」 「はい!」 「肺炎かもしれない、……ポータブル持ってきて!」 慌しい方が有難かった。 何かに集中していれば、いただけないモヤモヤを払拭出来る。 「どう?」 出来上がったフィルムを天井に掲げて透かし見る。 「真っ白じゃん」 途端にピー、というイヤな音が鳴り響いた。 「CPA(心肺停止)です!」 「心マ!」 こんなのは普通のことで 蘇生するのも普通のことで 「5トウ20ソク」 「はい!」 こんな場面なのに、やっぱり考えてしまうのは “彼女の心臓”のことで 例えば、彼女がこんな風になった時に 私はいつものように冷静でいられるんだろうか。 とりあえず考えてしまうのが もう既にいつもと違うような気がしてならない。 簡単に切って、離して こっちはこっち、とできるもんならそうしたい。 いや、今までそうしてたんだから そうでありたい。
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