カルテ9ー2

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「PCPS、準備して 佐藤先輩に連絡を」 「はい」 ベッドに横たわる、なんら普通の女の子とどこも変わらないこの子が侵されている病は重度の心不全。 極端に心臓の機能が低下しまくった状態だ。 「有馬さん」 「大丈夫、陣内出てて」 「分かりました、戻ってます」 直ぐに準備が整えられる。 これで回復してくれたら、言う事ない。 なんとなく、加倉井さんに触れることに抵抗のようなものを感じていた。 だけどそうも言ってられねぇ事態にまで展開してやんの。 笑う……ってか、笑えないし。 大腿部からのアプローチで右房までカニューレを進め留置する。 PCPSは重症心不全に適応される経皮的心肺補助だ。 大腿動静脈から血液の脱送を行う、簡単な人工心肺装置。 「脱血問題ありません」 「オッケイ」 「カニューレ固定します」 「うん、ガーゼ、多めに当ててあげて」 「はい」 滞りなく進んでいく処置。 思いの外、迷いなく動く指先に安堵した。 医者でよかったと思ったのは、本当に 数えるくらいしかない。 だけど、今は心底そう思う。 「血ガス見とこ」 「はい」 早く良くなって欲しいと思うのは 私が医者だからだ。 他に、なにもない。
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