カルテ9ー2

24/36
964人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
すっかり忘れていた。 鍵。 鍵の存在。 ボスが、鍵を陣内に託したんだ。 「おかえりなさい、有馬さん。 風呂、湧いてますよ?」 キラキラ、キラリと 普段はあまり見せてはくれない笑顔に いったい何が隠されてるんだろう。 玄関で固まってしまった私の頭上で 例のようにスポットライトが消える。 「何やってんですか?早く上がって」 ひょいと、顔を覗かせた陣内を感知したライトが きっと私の間抜けな顔を照らしたはず。 いやいや、上がってもなにも ここ、私の部屋ですからね? 「有馬さんどうします?」 「は?何がよ」 やっとリビングに入った私に 冷蔵庫を(勝手に!)開けながら尋ねた陣内。 ビールを片手に 「飲みます?」 と、今度は真面目ド腐りした顔を向ける。 「あー、風呂上がってからでいー」 「じゃあ、先にいただきます」 なんだ気が効くじゃないか。 陣内。 こんな生活もいいな、と思ってしまった迂闊さは 陣内には伏せておく。 バレたら、結婚だの、妊娠だのと迫られるからだ。 ……身体が健康なら 結婚だって、妊娠だってなんて事はない。 ただ、色々考えなければいけない人にとって それは、大きな困難になりうる。 もちろん、加倉井さんのことだ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!