カルテ9ー2

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「なにやってんだ、智也」 「別になにも」 何事もなかったかのようにパッと離された身体は 自立を揺るがすくらいの束縛だったことを知る。 ヨタヨタと足元に力が入らない後退りを見せ そのまま抱えられる始末。 勿論抱えたのは 陣内だ。 「大丈夫ですか、有馬さん」 「闇医者、相変わらず運だけはいいな」 クソ代表ザルめ…… 無意識に唇を拭っていた。 手の甲と擦れて痛いくらいに。 「……智、次はないぞ」 私を抱える腕に力が入って、背面と前面がピタリとくっつく。 陣内の熱が薄いスクラブを通して伝わってくる。 「と、思ったけど……有馬さん、立てる?自分で」 陣内の声のトーンがぐん、と下がった気がした。 「離すよ」 陣内が向かった先はクソ代表ザル。 あっ。 一瞬だった。 トイレが不似合いなクソ代表ザルがその床に飛ばされる。 ダン、と凄い音が鳴った。 拳で人を殴るのは思ったよりも力がいる。 相手を飛ばすとなると尚のことだ。 「ってぇなぁ、おにいさん……」 「人のモンに手ぇだしてんじゃねえぞ、智」 起き上がりながら顎を撫で関節の具合を確かめたクソ代表ザルは。 「ムキにならないでくださいよ」 「ムキ?そんな生易しいもんじゃねぇよ、怒ってんだよ」 「おー、こわ」 ヒラヒラと降参ポーズを見せて、立ち上がったその胸ぐらに伸ばされた陣内の手が2人の距離を詰める。 「穏やかにいきましょうよ」 「いけるか」 嘲笑いの、もっともっと冷めた笑い。 少しだけ上から見下ろした力の強い眼。
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