カルテ10

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ここでやればいいんですよ、と 簡単に言い捨てた陣内はレシピエントのデータシートを見ながら笑った。 その笑いの意味はさっぱりわからないが ボス曰く、移植では誰よりも凄まじく腕を奮える超敏腕ドクター(←誰もそんな風には言ってない)なんだから そりゃ取り出したドナー心はどこもかしこも完璧なんだろう。 例え、開いて初めて分かってしまったナニカだって なかった事にしてしまうんだろうな、と思ってしまう。 「で、有馬さん」 「なによ」 「どうやってドナーを探したんですか」 「は?」 どうやって? 「こんな、誂(アツラ)えたようなドナーをどうやって?」 「おー、こわ」 安い安い事務椅子がまたギシ、と音を立てた。 ボスが楽しそうに笑う。 「さあ、どうやって? コーディネーターに聞いてよ」 「……智に?」 眼鏡の奥の、強烈なその目ヂカラが 突き刺さりまくるんですが それよりもなによりも ここで この場所に陣内がいる、っていうのがめちゃめちゃおかしい。 「まあ、ちゃんとしたコーディネーターが家族に謁見するだろうから、問題なく事が運ぶと思いますけど……」 「なら、いいじゃない」 ギシギシ、と事務椅子が鳴るのは ボスが……笑ってるからだ。 「佐藤先生ともチームの皆さんを交えて、よく話といてください」 「分かった」 陣内は クソ代表ザルに、心臓を寄越せ、と直談判したことがきっと気に食わないんだ。 なによ、そんなとこまであんたに報告?相談?連絡?しなきゃなんないの? は? クソおかしいし。 「オペ日が決まったら教えてくれよ?」 ボスが肩を揺らしながら タバコを咥えて立ち上がる、 酷く軋むその事務椅子は先生の席だった。 そのまま 昔のまま特になにも変わっていない景色に ノスタルジックに陥る。 そして、世代は違うけど先生の孫がここに居て しかもその孫は 今、絶賛怒り中……。
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