カルテ10

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へんなの。 まさか、まさかだ。 ここは私の原点だ。 ここに来なかったら、私は出来上がっていない。 いや、まだ完成品まではほど遠いけど。 「ね、陣内。 あんたはさ、医師免許も持たずに 人を切る事に抵抗なかった?」 「……無いことも、なかったです」 「私、初めてやったのが掻爬でさ…… 顔もちゃんと覚えてる」 ここに来る若い女の子たちは ホントに色んな事情を抱えた子たちだった。 勿論、風営法なんてブッチギリで無視した世界にいたからだ。 資格もなくて 赦されない事をしていたあの頃の私が関わった全ての人が、その傷痕に脅かされることなくいて欲しい。 「陣内は凄いよね、自分からここに来たんだから」 「有馬さん」 「私はここにまたこうしてる、ってだけでも 不思議な感覚だわ…… しかもボスもいて、あんたもいるのが 異色すぎて」 ホントに複雑。 「有馬さん、前も言いましたけど 有馬さんがいなかったらオレがここにいる事はないですから」 データシートを片付けながら ドナー分のを鞄の中にしまい、陣内は立ち上がる。 「有馬さん帰りましょう」 「は?」 「おうちに帰ってから続きをゆっくりお話しましょうね?」 糞味噌真面目に顔面を煌めかせて あっという間に私の分の荷物まで掴んだ陣内は スタスタと歩き出す。 「陣内!」 どういうつもりかは知らないけど 「香川先生、お疲れ様でした。 詳細はまた後ほど」 時々陣内の無謀な強引さが爆発する。 仕方なく立ち上がったところへボスが一服から戻ってきた。 「ボス、ありがとうございました」 「望絵」 「はい?」 「早いとこヤッてスッキリさせろよ?」 「は?」 「お前の選択は間違ってない」 ボスが、余裕たっぷりに笑う。 この人も、昔から基本、何も変わっていない。 「元気にしてやれ」 ぶっきらぼうなように見えて 大雑把なように見えて ちゃんと熱い男だ。 私と加倉井さんの関係を知っていて 何も言わなくても、背中を押してくれる。 「勿論、そのつもりです」 ふ、と鼻で笑う音が聞こえた。 そして 早く行け、と言わんばかりに翳した手をピピっと振った。
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