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「有馬さん、乗って」
あ。
狭い道路に横付けされたエルグランド。
これを見て意外だと思ってしまったところから始まった勘違い。
世の中の男は、決まった相手がいるのに
古びてるけど、目新しいのに寄ってくるんだ、と思った。
夕焼けの世界はもうすっかりなくなって
ちょっとした星が遠慮を爆発させて、点々とそこにある。
もっとたくさん光ればいいのに。
「有馬さん、智のとこ、なんで1人でいったの?」
「は?」
車が走り出したと思ったら速攻来た。
最近陣内は早い段階で攻め込んでくる。
「1人でって、ブレイドさんもちゃんといたんだけど」
「……分かってないなぁ」
ちょっとイラっとした物言いの後
車はスピードをあげる。
「あんな事があった後なのになんで会うんだ、っつってんの
オレを心配させて窒息させる気?」
「は?」
窒息までしちゃうんだ。
「ま、いいや。
嫉妬深くて独占欲が強いのは後で分かってもらうとして……
彼女の移植の件なんだけど
なるべくなら早くに企てた方がいいよ?
他に良くないとこ、出たら厄介」
荒っぽい喋り方を収めるようにアクセルを踏み込む陣内。
ふと、窓の外を見て気付いた。
「ねぇ、どこいくの?」
明らかにどっちの家にも向かっていなかったからだ。
「内緒」
「は?」
「今すぐ、佐藤先生に連絡してみたら?
この数日中に決めた方がいい。
余計なお膳立てはもういらないでしょ?」
陣内は、ほぼ毎日加倉井さんといちゃこらしながら体調を観察してるんだから
何か些細な変化にも気付いているのかもしれない。
そうだ。
心臓以外で重症疾患が出たり
可動性の潰瘍、感染症になったりしたら移植適応除外と見なされてしまう。
彼女にドンピシャの心臓なんだ。
私は陣内に言われた通り、先輩にラインを飛ばす。
きっと、今日はうちの病院にいるはずだと思われる。
また、話が進むだろう。
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