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「私、悪いことしたかな……」
「何がですか」
「もっと、待ってる人がいたはずなのに
その人たちを差し置いたから。
医者としてどうなの、的な」
「それで助かる人がいるんだから同じですよ」
「……そ?
陣内は絶対私が不利になるような事は言わないよね。
甘やかしたらダメだよ」
窓の外はいつの間にか高速道路で
追い越し車線をスイスイと走るファミリーカー。
「甘やかしてなんてないですけど」
「そうかな」
「もうこれを逃したら
確実に見つかりませんよ。
血液型もHALも合う、……しかも脳死判定が下る人なんて」
陣内は時々恐ろしい事を言う。
クソ代表ザルはどうやってドナーを見つけたんだろうか。
聞いてみたくなった。
でも、また陣内におこられるかな……
別に急がなくたって
これからそんな機会なんて腐るほどあることに
気付いて
バカバカしいと思った。
「ね、陣内」
「何ですか」
「陣内が昔、あの木に登ってたの、思い出した。
あんた、あの時から私のこと有馬さんって呼んでたよね」
高速を下りると、目の前に広がってきたのは森のような場所。
「あぁ、そうでしたか」
「ね、なんでさ“先生”って呼ばないの?
よくよく考えてみると失礼だよね、あんた。
……って、公園?」
「そ、着きましたよ下りてください。有馬さん」
陣内は私より先に車から下りる。
その姿を見て、何故か慌てて続いた自分に笑う。
もぅ、完璧に、私は陣内の支配下にあるんだな、と。
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